CODE R.I.P. 掌編『刑事の肖像』

「だからさっきから何度も言ってるだろう。あんたらに話すことなんかなにもないとな」
 目の前の男性は、露骨に不機嫌そうな声で言った。
 一日中歩き回った足は、じんじんと痺れている。パンプスを脱いだおかげでずいぶんマシにはなったが、立ちっぱなしなのは変わらない。腰を落ち着けるようになるには、まだ先のようだった。
 斜め前に置かれたソファには、ふたりの男が座っている。ひとりは今回の事件で行動を共にすることになった、両国署の古参刑事である松元。もうひとりは、相棒の羽柴。もっとも若輩の祐希は彼らに席を譲り、結果として足の痛みに耐える羽目になったのだ。
「わしは忙しいんでな。こんな馬鹿げたことに付き合っている時間などないんだ」
 男性は富樫という、とある上場企業の役員であり、被疑者と目される男との間にかつて金銭トラブルを抱えていた。現在はなんとか収まったらしいが、被疑者の過去の様子を調べるためにはこの男性の証言が必要だった。
 なんとか都合をつけて自宅を訪問したものの、富樫ははじめから居丈高な態度を崩さず、雑談にも応じようとはしない。むろん、証言など容易に聞き出せる状況ではなかった。事件と直接関係がないことは事前に調べてはいるが、なぜこうも頑なな態度を取るのだろう。
「二、三お聞きしたいだけです。お手間は取らせませんので」
 羽柴が慇懃な口調で繰り返した。これで三度目である。
 しかし富樫は返事をするどころか、彼の顔を見ようともしない。無視したまま、
「警察はいつもそれだ、腕力と頭数と強引さで市民を押さえつけてくる。まったく、大学闘争のころからまったく変わっておらんな」
などと、大げさにぼやいた。
 よく見ると、富樫の身体はまるっきり松元の方を向いてしまっている。これは、松元の話なら耳を傾ける気があるというサインだ。もしかしたら、明らかに年長者である──ちょうど、富樫と同年代であろう──松元を差し置いて若い羽柴が場を仕切るのが、気に食わないのだろうか。
 それを察知したのか、松元は如才のない笑顔で答えた。
「いやいや、おっしゃるとおりで。わたしはちょうど駆け出しで、毎日のように検問に駆り出されてましたなあ。富樫さんはそのころはどうされてましたか?」
 口の重い証言者を話す気にさせるには、こうしていったん食いつきそうな話題に寄り道するのも、ひとつの手である。
 すると富樫は打って変わって小鼻をふくらませ、
「わしはな、日大全共闘の急先鋒だったのだよ。東大の坊ちゃんたちの作った貧弱なバリケードを作り直してやったものだ。やつらは勉強ばっかりの頭でっかちでな、屁理屈だけは一人前だがとにかくひ弱で情けなかったな」
と、得意げに語り出した。
 二十八になったばかりの祐希には、ふたりの会話はまったく想像のつかない世界であったが、とりあえず富樫の口を開かせることには成功したらしく、そこから延々と昔話がはじまった。最後まで無視を貫かれた形の羽柴は、黙りこんでいる。
 しばらく愛想よく対応していた松元が、ふとしたきっかけで事件に舵を戻すと、たちまち富樫は機嫌を損ねた。すかさず松元がなだめるが、ふたたび警察の悪口に戻ってしまった。
 はっきり言って、このような部外者にいつまでも関わっているほど、こちらもヒマではない。もっと重要な参考人の元へ事情聴取に回らねばならないのだ。祐希はだんだんイライラしてきた。
 ふと、松元がわずかに顔を横に向けた。視線を受けたのか、羽柴の首も少しだけ動いた。
 ふたりとも内心げんなりしてるんだろうな、と思った矢先。
 突然、派手な音が響いた。
 何事かと見ると、おとなしく座っていた羽柴が立ち上がり、あろうことかソファの間に据えられていたコーヒーテーブルを蹴飛ばしたのだ。
「さっさとこっちの質問に答えろ! 警察をなめてんじゃねえぞ!」
 それまで傲慢そうに振る舞っていた富樫の顔色が、見る見る赤黒く染まっていく。
「なっ……ッ! 貴様、なんのつもりだ!」
「そりゃこっちのセリフだ。いつまでも学生運動の闘士のつもりでいるみたいだけどな、俺から言わせりゃ今のあんたはただのくたびれたジジイなんだよ」
 乱暴にテーブルを足でどかせ、羽柴は富樫が座っている横に片足を乗せた。
 ひざに手をついて前屈みになり、挑発するように続ける。
「なんなら適当な理由つけて引っ張ってもいいんだぜ? ご老体にゃあ、留置場はさぞかしキツイだろうな」
 羽柴のあまりにも粗暴な振る舞いに、祐希は声を失った。
 たしかに富樫の態度も悪い。下手に出ているのに無視され続けた羽柴は、腹が立ったのだろう。
 だからといって、こんな風に脅すなどありえない。マスコミに知られたら横やりを入れられて、下手をすれば事件そのものをつぶされる恐れだってあるのだ。
 普段から決して穏やかとは言えないタイプではあったが、こんな暴挙に出るなんて信じられなかった。
 祐希はメモを放り出し、羽柴の背後から腕を取った。
「やめてください! なんてことするんですか!」
 すると羽柴は、こちらを振り返った。とばっちりを受けるかも、と反射的に身構えるが、意に反して彼の目には奇妙な静けさがあった。祐希がとっさに次の行動に出られないでいると、
「羽柴、出て行くんだ! 外で頭を冷やしてこい!」
と、松元が一喝した。
 こちらもまた意外だった。
 組んでまだ二週間だが、いつもにこにこした好々爺──というにはまだ早いが──然としているのに、窓ガラスをビリビリ振るわせるほどの怒号を上げたのだ。それに、万事において控えめな松元は捜一に一歩引いているのか、自分のような軽輩にも「さん」付けなのに、さっきは呼び捨てだった。それほど激しい怒りだったのか。
 ふたりの変貌ぶりに混乱する祐希の腕を振り払い、羽柴は「言われなくても出て行きますよ。ジジイの相手にはジジイがいいでしょうから」と捨て台詞を吐いて、部屋を出て行った。勢いよく締められたドアが、大げさな悲鳴を上げる。
「なんだ、あの若造は! 最近のヤツは礼儀がなってないどころか、常識まで知らんのか!」
 怒りで顔をまだらに染めた富樫が、松元に噛みついている。
「申し訳ありません、あとでようく言って聞かせますから。さっ、まずは落ち着いてお席の方に」
 そう言いながら、松元はこちらに目配せをする。「ここはまかせろ」と視線がささやいていた。
 祐希は形ばかりのあいさつを残し、羽柴のあとを追った。


 玄関を出ると、夏の日差しがいっせいに襲いかかってきた。暑さとまぶしさにひるみつつも姿を探すと、羽柴は道をはさんでななめ向かいにあるコンビニの店頭にいた。
 タバコを取り出そうとしているところへ駆け寄り、
「信じられません、あんなことするなんて! いくら頭に来たからって、言っていいことと悪いことがあります!」
と、激しくなじった。先輩に楯突くことになるが、一言言わねば気が済まなかった。
 すると、なにを思ったのか羽柴は、右手の人差し指を立てて口の前に持っていった。「静かに」という合図だ。
 我に返った祐希は、周囲を見渡す。コンビニから出てきた客や通行人が、興味津々といった風情でこちらを見ていた。
 騒ぎを起こすの本意ではない。しぶしぶ口を閉ざすが、怒りと不信感は収まらなかった。
 隣をうかがうと、当の本人は素知らぬ顔でタバコをふかしている。いったいなにを考えているのか。
 ──ちょっとでも「いい人かも」って思ったのが、バカみたい
 初対面の最悪な印象が薄れ、見直しはじめた矢先だったのに。
 やっぱりこの人は、ただの乱暴者なのか。事件解決のためならなんだってするんだろうか。
 なにもかもが信じられなくなった祐希がしょげていると、目の前に腕が差し出された。人差し指と中指の間に、紙幣が挟まっている。
「これでなんか飲み物買ってきてくれ。三人分な」
 この期に及んでもなお、使いっ走りをさせる気なのか。無性に腹が立った祐希は、
「ご自分で行かれたらどうですか」
と、つっぱねた。
 怒られるかと思ったが、羽柴は「いいから、ほら」と強引に金を握らせ、祐希を自動扉の前に追いやった。ガラス扉が開き、心地よい冷気が肌を包み込む。
 仕方なく店内に入る。ペットボトルのお茶やコーヒーを手にレジで並んでいると、話が終わったのか松元がやってくるのが見えた。
 ──ヤバイ、こんなとこでさっきのお説教をする気なんじゃ……
 祐希は自分の行動を棚に上げ、精算もそこそこにあわてて外へ飛び出した。
 松元はゆっくりとした足取りで羽柴に近付き、ポケットから取り出したハンカチで汗を拭いながら、
「いやあ、助かりました」
と、言った。
「やっこさん、あれから立て板に水でして。おかげで証言取れましたよ。フォローもしておきましたんで、ご心配なく」
 先ほどの迫力はどこへやら。好々爺復活、といった様子の松元に、羽柴は軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、機転を利かせてもらってよかったです。さすがですなあ」
 嘘のような和やかさに祐希が呆けていると、こちらに気付いた松元が目尻を下げた。
「やっ、藤井さんも。ビックリされたでしょう」
「あの……。いったい、どういうことですか?」
 状況が読めないでいる祐希に松元は、
「いえね。さっきのアレは演技なんですよ」
と、答えた。
「演技、ですか?」
「ええ。わたしぐらいの年齢の男性は、とにかく頑固で融通の利かないことが多くてね。ちょうど、富樫さんみたいなタイプですな。あの手合いは、基本的に人の話を聞きたがらない。ましてや、相手は自分の息子くらいの歳だ。若造の言うことなんて、と頭から否定してしまうんですよ」
「たしかに……。そういう態度がヒシヒシと感じられました」
「でしょう? 反対に、わたしのような同年代には気安い一面もある。ただ、あのままではなかなか本音までは聞けなかった。だから一芝居打ったんですよ。“生意気な若造”という共通の“敵”をつくり、わたしが叱りつけることで“仲間”意識を植え付けたんです。結果、わたしは富樫さんの“味方”になり、本音を打ち明ける気になったというわけです」
「じゃあ、羽柴さんはわざと富樫さんを怒らせたんですか?」
 祐希が問うと、羽柴は短くなったタバコを灰皿に捨てた。
「まあな。ちょい荒っぽかったけど、松元さんならうまくまるめてくれると思ったから」
「いやあ、普通は思いついてもなかなか実行できないですよ。これも捜一仕込みの腕前ですかな」
「買いかぶりすぎです」
 そっけない口調で返す羽柴だが、よく見るとどことなく落ち着かない。褒められることが少ないので照れているのか。
「そうとは知らずに、わたしったら本気に取ってしまったんですね」
 自分だけが素人のようで、恥ずかしかった。コンビニのクーラーでいったん冷えた頬に血が昇る。
「すみませんでした、羽柴さん」
 祐希が頭を下げると、羽柴は返事をせずに鼻を鳴らした。代わりに松元が答える。
「あれはあれでよかったんですよ、真に迫ってましたし。それに藤井さんが怒ってみせることで、乱暴な警察官ばかりじゃないと印象づけることもできた。ある意味、よいフォローになりました」
「そうでしょうか……」
「そうですよ。気を落とさず」
 優しい言葉に、祐希は少し笑った。
 しかし、自分がまだ捜査員として未熟だと思い知らされ、落ち込んでしまいそうだった。
 すると羽柴はぶっきらぼうに、
「あれは反則技みたいなモンだ。やらずに越したことはねえさ」
と、つぶやいた。


 駅へと向かう道すがら、やや後ろを歩く祐希に松元がそっと耳打ちした。
「それにしても、羽柴さんはやり手ですね」
 祐希が小さくうなずくと、松元は感心したようにあごを撫でる。
「誰でも憎まれ役はやりたくないものなのに、率先して引き受けるなんて、普通はできませんよ」
 ああ、そうだ。
 もし自分なら、あの場であんなふうに振る舞えるだろうか。
 羽柴のやり方は決して正攻法ではないが、時と場合によっては必要なこともあるだろう。
 刑事としての場数や経験だけではない、羽柴の芯の強さを思い知った。
 そのとき、祐希の携帯が鳴った。

     ***

「失礼します」
 断りを入れてから、藤井は電話に出る。秀明と松元は少し離れた日陰に入った。
「はい、藤井です。……はい、はい」
 聞き耳を立てるつもりはなかったが、結果として聞こえてしまう。少しばつの悪い心持ちで、額の汗を拭う。
「あ……課長。ご無沙汰してます。はい。ええ、まあなんとか。とんでもない、まだまだです」
『ご無沙汰している』ということは、捜一の関課長ではない。その前に、一捜査員に課長自ら電話をすることなどあり得ないが。
 となると、以前いた所轄の刑事課長だろうか。たしか、こいつは本郷署勤務だったっけ。
 隣の松元は、藤井から受け取った冷たい玄米茶を飲んで一服している。こうしていると、本当にただのオッサンである。誰も刑事だなんて思わないだろう。
「伊江田さん……。あっ、遙ちゃんのことですね。はい、覚えてます。……えっ?」
 藤井の語尾が跳ね上がる。秀明もつられて次の言葉を待ってしまった。
「……はい、はい。ええ、そうですね……。また折り返しお電話します。はい、はい」
 いったん電話を切った藤井は、神妙な面持ちでこちらに向かってきた。ひどく言いにくそうに切り出す。
「明日、少しの間でいいんで、本郷署へ行ってもいいでしょうか?」
「いいけど、なんでだ?」
 当然の質問をすると、藤井はほんのわずか躊躇したが、しばらくして答えた。
「以前わたしが担当した子が、こないだ出所したようなんです。それで、わたしに一言お礼を言いたいと……」
「さっきの電話は、その件か」
「はい。母親と一緒に署へ来てくれたみたいで」
「今もまだいるのか?」
 訊ねると、藤井はうなずいた。署のロビーで待っているそうだ。
「なら、明日なんて言わずに今行ってやれよ」
 そう言うと、藤井は驚いたように目を見開いた。
「え、でもまだ仕事が……」
「次の参考人のとこには、俺と松元さんとで行くから」
 秀明の言葉に、藤井は少し表情を曇らせる。
 この浮かない顔はさしずめ、「自分がいなくてもいいんだ」とでも考えてるんだろう。こいつは悪い方にばかり物事をとらえるから。
 そう察した秀明は、ひとつ咳払いした。
「事情聴取は刑事なら誰でもできるけど、その子の話を聞いてやれるのはおまえだけだ。待ってくれてるんだろ、行ってやれ」
 言ってから、三流ドラマのようなこっ恥ずかしいセリフだと照れくさくなったが、横で聞いていた松元が口をはさんできた。
「出所後にあいさつに来るなんて、いい子じゃないですか。きっとその子は、ずっと藤井さんと話がしたかったんですよ。そうじゃなきゃ、いやな思い出しかない警察にわざわざ来るなんてしませんよ」
 人情味あふれる、見事なフォロー。まさしく年の功である。
「……そうですね」
 松元の援護射撃は抜群の効果を発揮したようで、藤井の表情がゆるむ。
「さっ、あとはわたしたちにまかせて行ってきてください。『お帰りなさい』も忘れずにね」
「はい、ありがとうございます!」
 すっかり笑顔を取り戻した藤井は、ぺこりと頭を下げて駅へと駆け出した。ぎらぎらと照りつける日差しの中、ライトグレーのパンツスーツが陽炎のように揺れる。
 その伸びやかな後ろ姿を見送っていた秀明に松元が、
「まだいるんですね、彼女みたいな刑事が」
と、つぶやいた。
「意欲があって、まっすぐで。最近のサラリーマン化した刑事たちに見習わせたいですよ」
 藤井はたしかに、刑事としてはまだ未熟だ。だがそれ以上に熱意があり、知識として蓄えようとする貪欲さがある。手荒に扱う自分に対して食らいついてくるところなど、相当な根性の持ち主だ。
「昔はいたんですけどね、ホシに慕われる刑事ってのは。だが最近は恨まれこそすれ、慕われるなんてないですよ」
「……そうですね。俺もお礼参りしか経験ないです」
 新宿という場所柄か、それともたまたまか、秀明が手錠をかけた犯罪者たちはことごとく反省のかけらもない札付きばかりだった。以前、連続強姦とシャブで上げた元暴力団員が出所後に襲撃してきたことがあったし、似たような事例が何度かあった。
 捜査方法が荒っぽいからか、それとも人徳のなさかは不明だが、どちらにせよ自分とはまったく違うベクトルで、藤井は刑事としての道を歩いていることになる。
 彼女は秀明から捜査のノウハウを盗もうとしている。それはかまわないし向上心のあらわれだと感心するのだが、元々のスタンスがまったく違うのだ。
 彼女には、他人には疎まれても我が道を行くという自分のようにはなってほしくない。
 願わくば、今のまま素直に伸びていってほしい。
 出所後にお礼参りされるような刑事ではなく、感謝の意を述べられるような、そんな刑事に。
 そんなことを考えていると、松元がぽつりとつぶやいた。
「……捜一で、もちますかね」
「もつ、とは?」
「藤井さんですよ。現役の捜一課員に対して失礼かもしれないが、少し優しすぎやしませんか」
「…………」
 松元のような刑事畑の人間は、何度となく本庁の捜査員と組んでおり、あらゆる犯罪者を見てきているのと同様に、あらゆる刑事をもまた観察してきている。彼ならば、鋭く感じ取ることができるのだろう。
 所轄から選び抜かれたエリートが集まる捜査一課は、熾烈な競争現場でもある。生き馬の目を抜く戦場で、その過酷さに脱落していく若い刑事たちがどれほどいたことか。
 藤井のメンタル面が鍛えられるのか、それとも無惨に壊されてしまうのか。
 逐一世話をして保護すればいいのか、それとも突き放して修行させるのがいいのか。
 コンビを組んで四ヶ月、秀明は未だに自分の立ち位置について迷っていた。
「たしかに、あいつはまだまだ頼りない部分があります。けれど、向上心は誰にも負けない。俺は、そこに賭けたいんです」
「サイコロはどちらに転がるとお思いですか」
「……分かりません」
 優秀な刑事が、人として優れているとは限らない。
 どちらがあいつのためなのか。
 秀明はそのためにどうすればいいのか。
 コンビの行く先は、深い霧に閉ざされていた。
「行きましょうか」
 空になった玄米茶のペットボトルをかばんにしまいつつ、松元がうながした。
 いつの間にか、強烈だった日差しは傾き、自分たちのいる日陰は大きく伸びていた。
 秀明はもう一度額を拭うと、灼けたアスファルトへと一歩踏み出した。



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